項羽、劉備玄徳、孫文、汪兆銘。
これらの中国史の有名人たちの人名を中国人に言っても、ほぼ通じません。
たとえ発音を正しく言ったとしてもです。
昔の中国には「姓」と「名」以外に「字(あざな)」というものがありました。
子供の頃は姓と名しかないのですが、成人する時に新たに「字」を与えられ、その後はその人のことを「姓+字」で呼ぶのが一般的です。
成人になった後は「名」を呼ぶのは、本人および目上の人のみだったそうです。
また、芸術家については自ら「号(ごう)」というものを付ける例があります。
歴史上の有名人を呼ぶ時に、まず「姓」を呼ぶことは日中共通ですが、その後に名・字・号のうちのどれを付けたものが一般的かが、なぜか日中で違うことが多いようです。
まず、項羽ですが、姓が項、名が籍、字が羽です。
中国では彼を「姓+名」で項籍と呼ぶのが普通で、項羽では通じません。
先ほど、「成人後は姓+字で呼ぶのが一般的」と書きましたが、それはあくまで同時代に生きる人達の話で、後世の人々が歴史上の人物を呼ぶ際には、その人物ごとに姓、名、字のうちのどれで呼ぶかが歴史的経緯の中で定まるようです。
次に、劉備玄徳ですが、姓が劉、名が備、字は玄徳です。
中国では彼を「姓+名」で劉備と呼ぶか、「姓+字」で劉玄徳と呼ぶかのいずれかで、日本の「姓+名+玄徳」という呼ぶ方は奇異に感じられるそうです。
孫文は、姓が孫、名が文なのですが、後年、自ら「中山」という号を名乗りました。
中国では彼を「姓+号」で孫中山と呼ぶのが普通です。
中国には至るところに、「中山市」とか「中山公園」とか「中山路」というような名前が付いた場所があるのですが、それらは彼を記念して付けられたネーミングです。
「中山」の中国での読み方は「ジョンシャン」ですが、孫文は元々、日本人の「なかやま」という姓から自らの号を採用したのです。
彼が日本に留学していた時に、近所に中山孝麿という華族が住んでいて、その家の「中山」という表札を見てカッコいいなと思ったのが、その動機だそうです。
孫文の愛弟子でありながら、後に漢奸の汚名を着せられてしまう汪兆銘も、師に倣ったのかどうか知りませんが、「精衛」という号を名乗った関係で、中国では汪精衛と呼ばれるのが普通です。
あと、蒋介石は日本でも中国でも蒋介石と呼ばれていますが、「介石」は字であり、名は「中正」です。
なぜか台湾でのみ、彼は「姓+名」で蒋中正と呼ばれているそうです。
そんなわけで、中国人と仲良くなろうと思って、中国の歴史上の人物の名前の読み方を一生懸命マスターしても、日本で呼ばれている名前をそのまま中国語読みにしただけでは通じないことがあるので気を付けましょう。
尚、字や号の習慣は現在では廃れており、毛沢東、?小平、習近平といった現代の人達は、中国でも日本と同じ呼び方がされています。
◆目次へ戻る