2024/03/25 信濃毎日新聞
日本語教室・通訳派遣、揺らぐ支援 国の補助、先細りに不安
2月20日、松本市岡田町の障害者就労支援施設「岡田希望の家」で、帰国した中国残留日本人2世の女性3人が利用者に交じって黙々と作業していた。長年参加する竹内順子さん(73)は作業の手を休めると、切実な表情で言った。「みんな一緒に活動、楽しい。活動、続けてほしい」
施設を訪ねたのは、市内の守安威象(もりやすいぞう)さん(84)が代表を務める松本地域の中国残留日本人のグループ「陽(ひ)だまりの集い」。いつもは日本語や料理の教室などを開いているが、「自分たちも社会に貢献したい」と毎月1回、ボランティアに訪れている。この日は、施設が企業から請け負った袋詰めを手伝った。
だが事業はこの春、節目を迎える。守安さんは定年退職後に支援に携わり始めた。帰国者を支えることに喜びを感じてきたが、年齢を重ね、自家用車での送迎に不安がある。後継者はつくれなかった。来年度からは頻度を減らしつつ集う場を設けたい考えだが、帰国者には不安が募る。
飯田市のデイサービス施設「羽場赤坂デイ」(定員12人)は、帰国者2世が立ち上げたNPO法人「共に歩む会」が運営する。中国語に対応している。この半年で2世の利用が増え、1世の利用をしのぐ勢いだ。市からの委託で開く帰国者向け日本語教室も、2世の参加が過半数を占める。事務局長の下平尚志(たかし)さん(47)は「1世よりも2世の方が日本語を話せない人が多い印象」と話す。
そうした中で課題を感じているのは、市の委託で行う医療・介護現場への通訳派遣だ。全額が国補助でまかなわれるが、派遣対象は1世と、国費で1世と同伴帰国した2世のみ。大多数の2世は、1世が呼び寄せて私費で帰国しており対象外だ。通訳の派遣依頼を受けても、その場では帰国が私費か国費かは分からない。断ることはないが「ボランティアの部分が大きい」。新たな支援の枠組みが要ると考えている。
帰国者支援の取り組みが活発な兵庫県尼崎市で昨年11月、関西で活動する帰国者への支援相談員の座談会があった。「国からの予算が大幅に減額されている」「例年より補助が4割削減されると言われた」…。危機感を訴える声が相次いだ。自治体の日本語教室開催や通訳派遣などは全額に国補助を受けるからだ。
実際に広島や大阪、兵庫などでは教室を一時閉じたり、自治体が急きょ自主財源を充てたりと対応に追われた。長野県によると、県の支援事業では本年度、国補助の減少による支障はなかった。ただ支援の現場には他県の情報が伝わり、不安が一時高まった。
厚生労働省は結局、帰国者支援向けを含む補助金の枠内で他事業と調整し、年度途中に1億3千万円を追加交付した。本年度当初の補助額は2億5千万円で前年より8千万円少なかった。自治体側は予定通りに日本語教室などを開けたが、単独で補助金枠が確保されず、他事業に予算が左右される不安定さが浮かぶ。
12日の閣議後記者会見。武見敬三厚労相は本紙記者の質問に補助額変更の経緯を説明。「自治体には限られた予算の中で効率的な事業運営を行っていただくよう引き続き要請する」とも言った。そもそも補助金の枠は年々縮小傾向にあるという。
帰国者への支援の必要性が高まる一方で、現場にとって先を見通し難い状況が続く。